山口恭一の人生を変える就活

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どうやって人脈を作り、キープする?

親の教えを思い出せ

礼儀ができれば、必ずよい評判が立つ。よい評判が立てば、いろんな人から目をかけてもらえる。年長者に可愛がられるコツというのは、実は小さな心配りの積み重ねで、案外簡単なことなんですよ。ところが、これができない人がたくさんいる。
皆さんは小さいころ、こんなふうにご両親から言われませんでしたか?
「誰にでもきちんと挨拶しなさい」
「人に迷惑をかけないようにしなさい」
「何かしていただいたら、お礼を言いなさい」
「話は最後まで聞きなさい」
たいていの人は、そうしつけられた覚えがあるでしょう。これはおそらく、子供が社会に出たとき敵をなるべく作らないように、まわりの年長者から好感を持ってもらえるように……という親心なんじゃないかと思うんです。
でも私の知る限り、親から言われたことを実行できない、挨拶や礼儀のできない社会人というのがあまりに多い。
だから逆に、それができれば非常に目立つんです。年長者の好感を得ることができ、いろんなことを教えてもらえます。早く仕事ができるようになるし、チャンスもたくさんもらえる。情報も入ってくるようになります。
いまこそ、親の教えを思い出してほしいものです。社会人として成功するコツは、年長者から可愛がられること——これもまた、私からの「親心」と思って胸に留めておいてください。

“年長者人脈の輪”を広げよう

さてそれでは、年長者の人脈をどうやって作ればいいのか、具体的なアドバイスをします。
自分でいま思いつく年長者の知り合いといえば、誰ですか? 一番身近なところで、お父さんやお母さん、あるいは大学のゼミの教授あたりではないでしょうか。まずそういった人たちに、生き生きと前向きに仕事している方をひとり紹介してもらってください。
「生き生きと前向きに仕事している方」とは、どんな職種であっても、自分の仕事に目標を持って取り組み、お客様やまわりに喜んでもらえている方のこと。こういう方を私は「人生の成功者」と呼んでいます。地位や名誉や財産とはあまり関係がないんです。だから、サラリーマンでも、町工場の社長でも、何かの研究職の人でも、お寿司屋さんでもかまいません。自分の時間を自分でコントロールしながら生き生きと前向きに仕事しているそんな方をひとり、ご両親や大学の教授に紹介してもらいましょう。
紹介してもらったなら、その方にお話を聞きに行きます。ただし相手は忙しい方ですから、必ず前もって紹介者にアポイントを取ってもらいましょう。
「うちの息子・娘が(あるいは、うちの学生が)仕事についてのお話を伺いたいので、15分程度お時間をいただきたいのですが」
と言ってもらってください。紹介者に頼まず自分自身でアポイントを取る場合も、まずはきちんと挨拶をし、誰の紹介で連絡したか明らかにしたあと、
「私は○○大学の学生で、いま将来のことをいろいろ考えているのですが、その参考にしたいので、仕事に関するお話を△△さんにお伺いしたいのです。お忙しいところ申し訳ありませんが、15分で結構ですからお時間をいただけないでしょうか?」
と、目的を明確に述べましょう。
アポイントが取れたなら、せっかくの時間を無駄にしないように、聞きたい話の内容や質問事項をあらかじめ用意しておきます。そのとき気をつけたいのは、自分自身が前向きになれるための質問を用意しておくということ。その方がなぜ現在の仕事を選んだのか。最初のころはどういう目標を持って取り組んだのか。取り組むに当たってはさまざまな障害やアクシデントがあったと思うが、それをどうやってクリアしてきたのか……などなど。
よく、「これまでどんな壁にぶつかりましたか?」なんて苦労話ばかり聞く人がいますが、それだけを聞いたってしょうがない。あなたが聞き出すべきは、「人生の成功者」たちの失敗談でなく「成功談」のほうなんですよ。壁そのものの中身より、壁の乗り越え方に重点を置いて質問してください。
お話は適宜メモを取りながら一生懸命に聞くこと。そして最後に、また別の「人生の成功者」をその方に紹介してもらいましょう。前向きな方の知り合いというのは、同じように前向きな方が多いですからね。
「今日はお忙しいところ貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。実は厚かましいお願いで申し訳ないのですが、今回のようなお話をほかの方にもお伺いしたいので、よろしければどなたかお知り合いの方をおひとりご紹介いただけないでしょうか? どんな職業の方でもかまいません。仕事の目標を持って前向きに取り組まれている方をご紹介いただけると、大変ありがたいのですが……」
こんなふうに礼を尽くしてお願いすれば、きっとこころよく紹介してくださるはずです。お願いついでに、その場でその方にアポイントを取っていただければ完璧ですね。最初のときと同じく、相手の方には時間と目的を明確にお伝えするようにしてください。
そして二番目の「成功者」から話を聞き終わったら、また別の方を紹介していただき、その三番目の方にもまた別の方を紹介していただき……と、こんなふうにして年長者の人脈をしだいに増やしていくんです。いわば、『笑っていいとも!』に出てくる“友達の輪”みたいな“年長者人脈の輪”を作るわけです。

お礼状を忘れるな

前向きな人の話を聞いて「ためになったなあ」と感心しても、それで終わりじゃあまり意味がありません。せっかく頑張って作った年長者人脈の輪ですから、後々までしっかりキープしておきましょう。そのために絶対忘れちゃいけないのが、話を聞かせていただいたことへのお礼です。
お礼といっても、べつに金一封を包みなさいとか、品物を贈りなさいとか言うんじゃありません。お礼状——つまり、直筆の便りをお送りすればいいんです。
きちんと便箋と封筒に書くのがベストですが、それが無理ならハガキ一枚でもかまいません。たとえ字がまずくて書くのが苦手でも、心を込めて丁寧に書けば、少なくとも思いは伝わるもんです。どうしても「直筆はちょっと……」というなら、プリンタで印刷したっていいでしょう。だがその場合も、相手の方に即した内容を心がけるのは言うまでもありません。あと、同じプリンタ印刷でも、宛名をシールで貼るのはダメです! ダイレクトメールみたいで、絶対よい印象を与えません。
携帯電話や電子メール全盛の時代だからこそ、直筆の便りというのは相手の心に強く残ります。我々の先輩方が若かったころは、お世話になった方にお礼状を書くのなんか当たり前のことだったでしょう。でもいまは、こんなことで差がつくんですよ。手紙一通、ハガキ一枚で、きちんとした人と思ってもらえるんです。現に私自身、お礼状を忘れなかったおかげで、年長者の人脈をずっとキープできました。たいした時間もかからないんだから、必ず実行しましょう。
ただしここで大事なのは、一度きりの便りで終わらせないこと。会ったあとに一度お礼状を出すだけなら、わりと誰でも考えつくかもしれません。でも、できる人間というのは、ここからが違う。自分の近況報告を兼ねて、盆暮れ年頭のご挨拶をずっと続けるんです。こうやって継続することができるのが、ズバリ、できる人間。その場限りで終わりってのが一番ダメな人間です。
「盆暮れ年頭のご挨拶」というわけですから、夏と年末年始ですね。つまり、一度でもお会いして話を聞かせていただいた方に、暑中見舞いあるいは残暑見舞いと、一年の締めくくりの挨拶状と、年賀状を出すんです。
重要なのは、これを何年たっても出し続けること。そうすれば、長い間会うことがなくても、ずっと覚えていてもらえますし、何かまたアドバイスをいただきたいと思ったとき、直接アポイントを 取ってお会いできるようになります。あなたの印象をより強めるために、写真付きのハガキを使うのも一案ですね。
便りを書く際は必ず、現在何をしているか、どういう仕事の目標を持っているかなどをお知らせしておきましょう。その内容を見て、役立つ助言をくださるかもしれませんし、キーパーソンとなる人を紹介してくださるかもしれません。あるいは、その方ご自身が広報マンとなってあなたをほかの人に紹介し、それがきっかけで新しいチャンスが生まれることだってありますよ。
一度お会いした方に、いつどこで再びお世話になるかわからないんです。人脈というのは、何年かたって生きてくる場合が多い。盆暮れ年頭のご挨拶を欠かさず誠意を尽くしておくことが、あなたの将来にとって大切な投資になるんですよ。これを決して忘れないでください。

「人脈は夜作られる」というが……

会社に入ったら、定年まで40年近く勤めることになるわけですから、最低でも入社して最初の3年間くらいは仕事漬けになる覚悟を決めなくちゃいけません。ただし女性の場合は、これにあてはまらないこともあります。だから例えば10年仕事しようと思うなら、1年間くらいは仕事漬けでいいんじゃないでしょうか。
そのためには、年間100日の休みを3分の1近くまで減らし、遊びや趣味を犠牲にして仕事すること。休みの内訳は、月に2日、五月の連休と夏と年末年始に3日ずつで、合計33日。あと3日の予備日を加えて、全部で36日です。1年(365日)の1割といったところですね。それ以外の日はしっかり目標を定め
て努力し、営業系・技術系・事務系のいずれの職種を選ぶにせよ、入社して10年の間にトップランクになれるようにしてください。
というわけで、トップランクになる(=楽しく仕事ができるようになる)までは、あまり遊ぶ時間なんて取れないでしょうね。しかし、「あいつは仕事ができる」と誰からも一目置かれるようになったら、今度は休みを増やして遊ぶ必要が出てきます。遊びというのも人生勉強のひとつですからね。仕事の力がついてきて初めて、こういう人生勉強が役立ってくる。そうなると、さらによい人脈作りもできるんです。
ただしその場合も、同級生たちとチープに遊ぶより、少し背伸びをしても、年長者と交流できるような高級な遊びをすることをお勧めします。お酒を飲むにしたって、安い居酒屋に5回行くくらいなら、回数を1回に減らして高い店へ行くべきです。一番いいのは、そういう店の常連であるような年長者に連れていっていただくことですね。ここで、キープしておいた“年長者人脈の輪”が物を言うんです。お話をうかがったりご挨拶をしたりするうち、食事に誘われる機会も出てくるはずですよ。
一度の食事に3万円かかるフレンチレストランと、3千円ですむ料理屋とでは、やっぱりサービスも雰囲気も、来ているお客さんの質も違うんです。仕事ができるようになってからなら、こういった違いもわかるはず。トップランクの仕事人になったら、最高のサービスというものを一度は味わっておいたほうがいい。
さて……ここで老婆心ながら忠告をひとつ。「人脈は夜作られる」なんて言われますが、よい人脈を作るためにも、お酒の飲み方にはくれぐれも気をつけてくださいよ。
酒癖が悪くて仕事ができる人間というのは、絶対にいません。酒癖の悪い人は必ずどこかで大きな失敗をします。もっと言えば、人生が狂ってしまうことだって多々あります。新聞を見てみると、お酒が原因でケンカをしたり交通事故を起こしたりした人の話が、しょっちゅう出てるでしょ。あくまでも円滑なコミュニケーションの手段であるお酒を、あなたの人生狂わせる道具にしてしまっちゃいけません。いいお酒の飲み方を、一度しっかり研究しておきなさい。
逆にお酒が飲めなくても、宴席の過ごし方が上手で、まわりの信頼をかちえた人は大勢います。場の空気を読んで宴席を盛り上げる能力や、おもてなしの気持ちが評価されるんです。私の知っている中では、アクサ生命保険株式会社の元会長さんである松戸猛氏がそういった方ですね。「こんなビジネスマンになりたい」と思わせてくださる、すばらしい方です。

どうすれば年上に可愛がられるか?

何でもかんでも聞きに行く

それじゃ、どうすれば年長者に可愛がってもらえるのか——これは、自分がどんな後輩を可愛いと思うか、考えてみればわかるんじゃないでしょうか。
セミナー会場で「あなたにとって可愛いのはどんな後輩?」と学生諸君に尋ねると、例えばこういう答えが返ってきます。
「自分を慕って何でも聞きに来る後輩」
「礼儀正しい後輩」
「明るい後輩」
「何でも言われたことを一生懸命やる後輩」
「真面目で素直な後輩」
そう、まさにそのとおりのことを年長者たちも考えているんですよ。自分を慕って教えを請いに来る人や、一生懸命な人は、年長者にとっても可愛いものなんです。だから、どんなことでも知ったかぶりをしないで、年長者にどんどん聞きに行きましょう。そして話を聞くときは、カッコつけないで、素直に自分自身をさらけ出すことが大事です。
ところが、いくら私がこんなふうに言っても、いまどきの学生諸君はパソコン・携帯世代のせいか、人に話を聞くことをあまりしませんね。誰かに教えを請う、というのが苦手のようです。
何かわからないことがあれば、まずインターネットで調べようとする。あるいは『○○のやり方』といったマニュアルを頼りにしたりします。
しかし、ちょっと考えてみてほしい。例えばあなたが「サッカーやりたい!」と思ったとして、マニュアルだけを読んでいきなりピッチに立ちますか? あるいは、女性が将来結婚して赤ちゃんを産むとする。育児に関する情報すべてをインターネットで手に入れただけで、出産にのぞむでしょうか? そんなはずはない、と私は信じたいですね。やっぱり、経験者や上手な人にいろいろ聞いて教わる、というのが物事の基本だと思うんです。
わからないことはわかる人に聞くのが手っ取り早いし、よく理解もできるんですよ。何をやるにしても、インターネットを見たりマニュアルを読んだりするより、上手な人に教わるのが一番です。私の場合、仕事で壁にぶつかったときも、まず売れている人にやり方を聞きに行きました。売れている人というのは前向きな方ばかりなので、自分のモチベーションも高く保てるんです。ずいぶん励まされたし、勇気づけられましたね。
とにかく、下手なプライドや恥ずかしさをかなぐり捨てて、何でもかんでも人に聞きに行くのが上達の早道です。それによって人脈も増えていきます。
自分にとって必要な情報は、コンピューターの中だけにあるんじゃないのです。
“情報=人”なんです。それに、恥を忍んで人に何でも聞けるのは若いうちだけですよ。まさに、「聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥」です。

パクリこそ成長の秘訣

年長者に限らず、他人から可愛がられる人ってのは、当たり前のようだけど「可愛げのある人」。簡単に言うなら、素直な人でしょう。こういう人物は、面倒見てやろう、いろいろ教えてやろう、と他人から思ってもらえる。
素直な人とは、与えられた目標に対して、自分の時間を無心に投資できる人です。言われたことに対してひたむきに取り組む人です。上司やできる先輩から「○○してみたらいいよ」とアドバイスされれば、「はい」と答えて、そのとおり やってみる人です。
ただし誤解のないように付け加えますが、素直な人というのは、返事だけハイハイと調子のいい「イエスマン」とは違いますよ。上司やできる先輩が教えてくれる仕事のコツを、すぐ実際にやってみる——つまり実行に移して自分の身にすることができるのが、素直な人なんです。
素直な人は、他人の真似をすることができる。年長者の話を聞いて役立ちそうなことを自分もやってみたり、仕事上手な人のやり方を参考にしたり……つねに他人のよいところを探し出し、少しでも真似できるところを見つけようとするんですね。
ちなみに私の場合、最初にできる人の真似をしたのは歩き方でした。仕事上手な人ってのは、歩くのが早いんです。時間を無駄にしない癖がついているんでしょう。次に、売れている先輩営業マンの販売ツール。それから、先輩営業マンがかつてやっていた訓練方法。この3つを即、真似させてもらいましたね。
しかし、新卒対象の説明会などで「他人のよいところを真似しなさい」と勧めると、「それってパクリじゃないんですか?」と言われることがあります。いまの若者は、他人の真似=パクリだからかっこ悪い、なんて思っているんですね。これはおかしい。スポーツでも芸術でも、入門してまずやるのは、上手な人の真似をすることでしょう。そこからしか始まらないんですよ。仕事に関してだけ例外が成立するわけはない。
真似しろというのは、何も偽ブランド品みたいな“コピー”を目指せってんじゃありません。初心者のうちはお手本を真似して基本を身につけろ、というだけの話。そこから独創的なものを生み出せばいいんです。これが日本人の強みじゃないですか。日本は最初アメリカの真似から始まって、そのうち独自のすばらしい製品を開発したでしょう——自動車しかり、コンピューターしかり。それと同じことですよ。
パクるのは恥だという発想は、今日から捨てましょう。むしろパクリOK、パクリこそ成長の秘訣だと言えるんです。年長者の言うことを素直に聞き、できる先輩のいいところを無心に真似して、おおいにパクってください。

年上とのお付き合いに必要なもの

もう一度繰り返します。仕事で成長するコツは、とにかく年長者に可愛がられるようになること。年長者の人脈があなたの人生を決める、と言っても言いすぎじゃないくらいです。
だから、できれば大学を卒業するまでの間に、年長者とのお付き合いのしかたを学んでおくといいですね。どんなスポーツも、試合の前には必ず練習の積み重ねがあります。それと同じで、社会という試合の場に出る前に、目上の人々との接し方を練習しておくことをお勧めします。
では年長者とのお付き合いの前に、これだけは押さえておきたいというポイントを、次にいくつか挙げてみましょう。
まずポイントとなるのは、言葉遣いです。目上の人に対して、ちゃんとした敬語を使える自信はありますか?正しくきれいに敬語を使うのはなかなか難しいものです。まあ、たとえいまは自信がなくても、使っているうちに慣れてくる面もあるでしょう。しかし、少なくともタメ口で話すのだけは、絶対にアウトですよ。
次に、礼儀正しい態度を心がけてください。例えば年長者の話を聴くときに、脚を組んだりひじをついたりしちゃいけません。上の空でキョロキョロしたり、話している相手の方の顔を見ないでひたすらメモ取りに専念したりするのもダメ。学校の授業を受けてるんじゃないんです。年長者に対してこうした態度は、大変失礼になりますよ。むやみに緊張する必要もないですが、相手から見られているという意識をつねに持っていたいものです。
また年長者と会うときの服装や化粧などは、TPO(時と場所と場合)を考えたものにすること。清潔感も大事です。身だしなみに気を配ってください。
そして最後に、きちんと挨拶ができるようになること。挨拶は社会人としての基本中の基本とも言えるものです。
こういう話を聞いて、「そんなの全部当たり前のことじゃないか」と思う人もいるかもしれませんね。しかし実際、ちゃんとした大学を出ていても、敬語が使えなかったり、礼儀を知らなかったり、挨拶ができなかったりする新入社員が、世の中にはごまんといるんです。
例えば当社の会社説明会で、私が話をしたあと質問はないかと聞きますね。すると手を挙げた学生が、いきなり「これこれについてはどうなんですか?」と発言したりする。まずは「○○大学の△△と申します。本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました」という挨拶から始めるのが当たり前でしょうその当たり前のことができない学生が毎年いるんですよ。いまのうちから練習しておいて損はありません。
言葉遣い、礼儀、身だしなみ、挨拶——難しいものはひとつもないはず。
要は、人生の先輩方に対する敬意を忘れないようにすればいいだけで、一人前の大人ならどれもできて当たり前なんです。当たり前のことが当たり前にできる——これが、年長者とのお付き合いでは絶対に外せないポイントだと言えるでしょう。

社会人にとって重要な人脈とは?

仲よし友達と群れるのはほどほどに

皆さんには、困ったときに相談することができる友達や知り合いがたくさんいますか?
イエスと答えたあなたは、現在どのような人脈を持っているでしょうか。クラスメートとかサークル仲間、中学や高校の同級生やなんか以外に、社会的地位のある年上の人たちへつながる人脈を持っていますか?
人間はひとりじゃ生きていけません。他者との関わりの中で、自分を見つめ、自分を磨き、自分を大きくふくらませていくのが人間というもの。だからこそ、あなたが自分を成長させたければ、これからいい人脈を作っていくことが、とても大事になってくるんです。
同級生との付き合いは、立場がお互い対等だから、そりゃあ気が楽でしょう。言葉遣いもぞんざいでいいし、服装や身だしなみだって、あまり神経質になる必要はありませんからね。学生の間は、そんな仲よし友達同士の付き合いが、あなたの人的交流のほとんどを占めることが多いんじゃないでしょうか。
しかし社会へ出て、自分の力で生きていけるようになりたいと思ったら、同級生と付き合ってばかりいられませんよ。仕事の場で成長するためには、より視野を広く持って人的交流をおこない、豊富な人脈を作っていく必要が出てくるからです。ここで重要なポイントとなってくるのが、年長者——つまり人生の先輩方との付き合いなんです。
社会へ出たとたん、皆さんはたくさんの年長者に取り囲まれます。上司や先輩といった社内の人々、取引先の担当者、お客様などなど……。そしてその方々は、あなたに大人の対応、プロフェッショナルとしての対応を求めてきます。だってお客様から見れば、勤続10年のベテランだって、昨日入社したばかりの新人だって、同じ会社の人間なんですからね。
そこでひるまないためにも、年長者とお付き合いをして、そこから得られたものを自分の糧としておくべきなんです。年長者とお付き合いすれば、人生指南や貴重なアドバイスがもらえるだけでなく、目上の方との接し方そのものも会得す ることができます。
ところがこんなふうに言っても、ほとんどの新入社員は、同期入社の仲よしとしか付き合いませんね。あるいは、相変わらず学生時代の友達付き合いに精を出したりします。
これじゃ、いつまでたっても人間として成長することはできません。もちろん、たまにはホッとする場や息抜きも必要ですが、いつも同級生とつるんでいるだけじゃ、仕事のプラスには絶対なりませんよ。
できる人というのはそもそも、人付き合いは大切にするけれど、決して群れないものです。仲よし友達と群れて遊ぶのも、ほどほどにしましょう。
皆さんの人的交流、これからは8割を年長者とのお付き合いに費やすようにしてください。そして2割が仲よし友達。もし、この割合がずっと逆の状態なら、仕事で早く成長することは決して望めません。

あなたにチャンスをくれるのは年長者

というわけで、これを頭に入れといてほしい社会人にとって重要な人脈とは、何といっても年長者の人脈なんです。
なぜなら、皆さんにチャンスを与えてくれるのも、的確な情報をくれるのも、物事のノウハウを教えてくれるのも、すべて年長者だから。同級生や後輩はチャンスをくれませんよ。自分が年取ってからなら、同級生や年少の人からチャンスをもらうことも出てくるかもしれませんが、若い間は、チャンスを与えてくれる のは絶対に年長者です。
まず、考えてみて下さい。人生最初のチャンスをくれたのは、誰でしたか? やっぱり年長者、つまりご両親ですよね。この世に生まれてからいままで、何の見返りも求めず、物質面と精神面の両方で惜しみない投資をしてこられたのは、ほかでもないお父さんとお母さんでしょう。
次に、例えば学校の先生だったり、習い事の師だったり、スポーツクラブの指導者だったりという年長者が、いろんな場面でさまざまなチャンスを与えてくれたはずです。そして、会社に入れば直属の上司が指導し、評価し、チャンスをくれます。ときには仕事上手な先輩がチャンスをくれることもあるかもしれません。
こうした年長者がくれるチャンスを、逃しちゃいけません。20代で与えられたチャンスを、時間と頭を投資して生かすことのできた人だけが、30代になってさらに大きなチャンスをもらえる。そのチャンスをまた生かすことによって、人間的に成長し大きく飛躍していく——これが会社のしくみ、世の中のしくみっても んです。
そう考えてくると、成長のコツというのは年長者との交流にあるんです。仕事でチャンスをもらい、それを生かして飛躍するためには、とにかく年長者に可愛がられるようになること。これに尽きると思います。

新入社員にメリハリは必要か?

遊びや休みを犠牲にしろ

人生にはメリハリが必要です。働くときは働く、遊ぶときは遊ぶ。
しかし、新入社員諸君にはこの原則が当てはまらないんです。私の体験談を読んでみれば、うなずけるところが多いんじゃないでしょうか。時間と頭を投資するのは20代の若いうちがベスト。それも、勤務時間外の自分の時間を投資しなくちゃいけない。つまり早い話、新入社員の間は休日もずっと仕事のことを考えろ ってことですね。
ところがこんなふうに言うと、学生諸君の絶望的な顔が目の前に見えるような気がします。
「人間、遊びや趣味の時間だって大事じゃないか。休みの日くらい、仕事のこと忘れてのんびりしたいよ!」なんて考えてませんか?
だけど、ここが思案のしどころなんですよ。このカテゴリーの始めに言った、投資とリターンの話を思い出してください。
安上がりな時期に時間と頭を投資して、あとからゆっくり自由時間のリターンをもらって楽しむか、それとも若いうちに楽をして遊んで、将来、会社から重宝がられることのない“その他大勢”のグループに入ってしまうか。あなたはどっちを選びますか? まさに、イソップ童話の『アリとキリギリス』みたいなもんですね。
今どきたいていの会社は週休2日制ですから、年間の休みは100日以上になるでしょう。これをそっくりそのまま休んでおいて、あとからリターンをもらえると思いますか? それは虫がよすぎるってもんです。若いうちに時間を投資するからこそ、年取ってからのリターンが多くなるんです。
ところでその投資する「時間」についてですが、これは、遊びや休みを犠牲にした時間でないといけないんです。遊びや休みを犠牲にすれば、その時間の「量」はそのまま「質」に転化します。逆に言うと、遊びや休みを犠牲にしていない量は、質に転化できません。
例えば日本の大学のトップランクといえば、やっぱり東大ですよね。ここの学生さんは、小さいころから「遊びたい」「たまには休みたい」という思いを犠牲にしてきた人が、おそらくほかの大学よりも多いんじゃないでしょうか。その犠牲が投資となって、東大合格というリターンがもらえたわけでしょう。仕事も同じ。トップランクになりたければ、遊びや休みの時間を投資する必要があるんですよ。投資が大きければ大きいほど、大きなリターンが望めます。
というわけですから、若いうちは土日の休みもないものと思ってください。趣味やプライベートの時間を大事にしたいなんてのは、仕事ができるようになってからの話。プロ野球選手だってレギュラーになろうと思ったら、オフの時間を犠牲にして人の何倍も練習するんです。それと同じことですよ。
男性の場合は、仕事イコール人生という長いスパンになります。長く楽しい人生を送るためにも、入社して3年間は、仕事漬けになる覚悟を決めといたほうがいい。遊ぶのはプロになってからです。目先主義の人たちの将来は、悲惨ですよ。
女性でも総合職希望の人なら、男性と同じ覚悟が必要。でも女性の人生設計はさまざまですから、40年も勤めないという人も中にはいるでしょう。その場合も、例えば10年勤めようと思ったら、最初の1年くらいは仕事漬けになってほしいですね。
とはいえ、365日まるっきり休みなしというのは、あまり現実的じゃない。だからこんなふうに考えたらどうでしょう。年間の休みは、多くても1割とする。つまり365日の1割だから36、7日といったところですね。内訳は月に2日、五月の連休と夏と年末年始に3日ずつ、合計8日。あとは、病気になったり急用ができたりしたときのための予備日です。
会社というのは、世の中の人(=お客様)に喜んでいただきながら収益を上げ、従業員全体の生活向上を目指す組織です。あなたがそこの一員になったなら、まず仕事の目標を設定し、プロになるための修業を始めなくてはなりません。一人前になるまで——少なくとも3年から5年の間は、年間100日の休みを3分の1に減らしましょう。

年間100日の休みはこう使え

それでは「勤務時間外の時間」、つまり年間100日の休みをどう使って投資をおこなえばいいのか、もっと具体的なヒントを挙げてみましょう。私の経験上、どうしても営業という職種に重点を置いた内容になりますが、ほかの職種を志す人たちにとっても参考になると思います。基本的な考え方は変わりませんから。
営業の場合、まず必要になってくるのが、自己紹介と、会社に関する知識と、商品知識です。商品知識の豊富さだけなら、誰だってすぐプロになれるんですよ。とことん勉強してください。自社が扱っている商品の種類すべて、特徴や価格を頭に叩き込みましょう。その商品の歴史や、開発秘話なんかも忘れず調べること。
そして、自社商品と他社商品との違いを知っておくことも大事です。自社商品の強いところ、競合他社の商品の強いところ、それがわかってないと、お客様のニーズに沿った提案はできません。どんな業界のどんな商品だって、100点満点じゃない(もし100点の商品があるなら、みんなそれを買うから営業マンは要りませんよね)。だからこそ、競合他社と比べた自社商品の強みや弱みを知っておかないと、顧客の動向やターゲットをつかむこともできないんです。
「わが社の商品には○○○といった利点がありまして……」と自社商品のいいところを一方的にまくし立てるだけじゃ、決して喜んでいただけませんよ。足りないところも知った上で、「お客様のこれこれこういう希望を叶えるには、この商品」と的確にニーズを満たすことができるのが、プロの営業マンです。
商品知識と並行して、お客様層の研究も大事な勉強のひとつになります。いままでにどういう人が買ってくれたのか、どういう人が買ってくれなかったのか、できる範囲ですべて調べましょう。これを調べないと仕事になりません。それどころか、顧客層がわからなけりゃ、会社だって実際成り立たないんです。製品開発だって営業だって、買ってくれそうな人」にターゲットを絞っておこなうのが基本ですからね。
それからもちろん、広く業界全体のことも勉強してください。インターネットで調べたり、ビジネス書を読んだりして、幅広い業界知識を身につけなくちゃなりませんよ。
営業職なら、オリジナルの販売促進ツールを作ることも大事。自社商品に関連する新聞や雑誌の記事をスクラップしたり、すでに商品を購入されたお客様の声を引用させていただいたり、イラストが得意なら図解入りの資料を自作したりするのもいい。まずは売れてる人のツールを見せてもらい、真似してみましょう。
私がやったようなプレゼンテーションとかセールストークの訓練をするのが、とても大切。内定期間中の学生さんだったら、自己紹介の練習をしてみるのがお勧めです。10分・5分・3分・1分・30秒、それぞれの制限時間で効果的に自己紹介するには、どう話せばいいか——まずはレジュメを作り、それに沿って練習しましょう。自分の話しぶりを鏡に映してみたり、テープに取って聞いてみたりしてみてください。
事務職の人なら、まずはパソコン能力が必要。あと大事なのは、電話応対。内定期間中の学生さんなら、電話関係のアルバイトを探してはどうですか。
テレフォンアポインターではなく、商品説明とかサービスの案内とか、お客様への快い応対法を勉強できるようなものがお勧めです。そのほかには、何を勉強したらいいのか、できれば会社の先輩に聞いておくといいでしょう。
あとは、できる人の仕事ぶりを観察し、いいところを真似するための研究をおこなうのも大事なこと。ふだんから気づいたことを何でもかんでもメモしておき、自由時間にノートに清書するようにしましょう。メモする際には、日時や天気や場所やそのときの状況など、細かいところまですべて記入します。そうすれば、あとから情景や場面が思い浮かぶはず。これを何度も何度も読み返して、自分の ものにしてしまうんです。
学生諸君の中には「真似すること=パクリだからかっこ悪い」なんて考える人もいるようだけど、これは決してかっこ悪いことじゃありませんよ。スポーツでも何でも、初心者のうちはうまい人の真似をするのが上達の秘訣でしょ。仕事だって同じ。最初はできる人の真似をし、何度も訓練してそれを“自分のものにする”ことが肝心なんです。
さあ、皆さんはこれらすべてを、勤務時間内にやれると思いますか?
……やれるはずありませんね。もしやれるとすれば、その人は勤務時間に仕事をしてないってことになります。つまりこうした勉強や訓練は、休日や余暇を削ってやるよりほかないんです。
お客様にまた来ていただく、あるいはまた会っていただくための努力も、やっばり勤務時間外にしかできません。この努力とは具体的に言うと、お礼状や挨拶状などのたぐいです。たとえ下手な字でも、心をこめて自筆のハガキや手紙をお客様に出しておく。
これを努力していれば、「○○さんなら」という信頼をいただくことができます。そうなると、紹介案件も生まれてくる。紹介とは、自分が営業しなくてもお客様ができるってことなので、結果的に営業時間が短縮されるわけですよね。自分の時間を投資した結果のリターンって、こういうことなんですよ。
さて、年間100日の休みの使い方が実感できましたか? 新入社員のうちにこういうことを実行していれば、本当の休日はおのずと3分の1くらいに減ってしまうでしょう。そしてある程度訓練ができたなら、今度は休日を、訓練でなく実際の仕事(営業の場合は営業活動)に使うんです。お店はいつでも開けておくほうが、お客様を呼び込めるというわけです。
まずは、いま自分が何もできないことを自覚しましょう。いま何もできないからこそ、これから訓練するわけです。どんな仕事でも、訓練しないと決して上手になりません。
誰に何を聞かれても答えられるように、一生懸命訓練してください。「遊びや休みを犠牲にしてこれだけやったんだから、自分は誰にも負けない!」と思う気持ちが、最後には決め手になるんです。仕事のできない人が休みの日に訓練せず遊んでいるのは、セブンイレブンが24時間営業を短縮してるようなもんです。つまり、みすみす負け組へのレールに乗ってしまっているんですよ。
皆さんは、大学を受ける前に受験勉強をしてきたでしょう? 特に難関校なら、学校の授業だけで合格するのは難しいはずです。
仕事だって同じこと。会社に入ったらもう勉強しなくてすむなんてのは、大きな勘違いですよ。一人前になるためには、勉強しないといけないんです。入社したら3年間は、休みなしで仕事漬けになる覚悟を決めてください。

社長が教える☆就活のガッツ

  • その14 時間と頭を投資するのは若いうち・早いうちがベスト。
  • その15 10年投資して、その後30年リターンをもらおう。
  • その16 時間と頭の投資は目標設定とペアでおこなう。
  • その17 休みや遊びを犠牲にして時間を投資するのが肝心。
  • その18 年間100日の休みを3分の1に減らせ。

どんなふうに時間と頭を投資してきたか?

仕事上手な人は自由時間を投資している

それじゃここから、私の実体験に基づいた「時間と頭の使い方」をお話しします。私がいままでにどうやって時間と頭を投資してきたか、どんなふうに時間外の努力をしてきたか知ることが、ひとつの参考になるでしょう。
20歳のとき、確固たるビジョンを持つ同級生たちの会話に打ちのめされた私は、浪人生活に見切りをつけ、社会へ飛び出しました。そのときの長期的な目標は「起業して経営者になる!」。早く営業力を身につけられて独立できそうな仕事を探し、レジャー会員権の販売会社に入社しました。
その会社で最初に上司からこう言われたんです。
「朝は8時前に出社するように」
ええっ? と思いましたね。だって、就業条件の説明のときに「勤務時間は午前9時から午後6時まで」と言われたんですよ。なのに帰りだって、午後6時どころか10時、11時ごろまでみんな会社にいるらしい。どうしてかなあと思ったんで、おずおず上司にきいてみました。
「8時前に出社ってことは、8時から何かあるん……ですよね?」
すると返ってきた答えが、
「当たり前だろう。仕事は9時から始まるんだ。だから、その前に準備をするん じゃないか」
ああそうか、なるほどと納得しました。言われてみれば、勤務時間外に準備するのは当たり前です。あなたが学校に通ってたころだって、宿題だの塾通いだの、時間外にやらなくちゃいけないことが結構あったでしょ?
それにしても、このころの私は世間知らずの面があったとはいえ、実に素直でしたよ。この8時出社の件だって、ただ不思議だと思ったから素直にきいてみただけ。だけど、これがもし「勤務時間は9時からという条件だったのに、どうして違うんですか?」なんて言い方したら、そうとう可愛げがないよね。気をつけ ましょう。
そして上司はこうも言いました。
「夜は時間どおりに帰っていいんだよ。ただし、売れたらの話だけどな」
これまた、なるほどと納得です。○時から○時までオフィスにいればいい、というような仕事じゃありませんからね。特に営業に関して言うと、時間はほとんど関係ない。“売ってナンボ”なんです。
そのころはまだ、週休2日制が世の主流にはなっていませんでした。私の会社も土曜は隔週休み。だけど土曜の休みはもちろん、日曜日さえまともに休めない日々が続きました。仕方ありません、“売ってナンボ”の世界なのに、毎日足を棒にして歩き回っても全然売れないんですから。売れるまでは遊ばないという覚悟で、休日も仕事をし続けました。六月に入社してから最初の3カ月で休んだのは、たったの2日です。“売れなきゃ休めない”というのはイコール“売ったら休める”でもある。そう思うと少しは気が楽になりましたが、実際問題売れないものをどうしたらいいのか。
「営業ってのは大変な仕事なんだな……まさに、ハイリスク・ハイリターンの職種だ……」
「ハイリスク・ハイリターン」ってのはこういうこと。営業というのは、売れなければ地獄です。時間はむちゃくちゃ制約される、体は疲れる、お金はもらえない、ボロクソに言われる、下手すりゃクビになる——売れなきゃこれだけのリスクが待ち受けている。まさに「ハイリスク」です。その反面、売れれば天国。時間は自分でコントロールできる、人から喜ばれ期待される、お金は沢山もらえる、将来が見えてくる——これだけのリターンがもらえるんだから、「ハイリターン」なんです。
ここでまた例のとおり、私は人のアドバイスを請いました。売れてる営業マンと、上司に話を聞きに行ったんです。
「どうすれば売れるようになるんでしょうか?」
「売れてるやつの真似をすればいいんだよ」
これが上司の答えです。そうか、と思って売れている人たちの様子を観察し始めました。
とはいっても、新米営業マンがトップセールスのやり方をすべて真似しようとしたって、なかなかできるもんじゃありません。トップセールスの人たちというのは、築き上げてきた実績の層が厚いんですよ。お客様からの信頼があるから、紹介もたくさんいただける。このあたりは新米が太刀打ちできないところです。
しかしそれでも、とにかく何か自分に真似できるところから始めようと、必死でしたね。何でもかんでも一生懸命先輩に聞きにいくので、そのうち先輩のほうでも「あいつ、頑張ってるな」と思ってくれたんでしょう、熱心にいろいろ教えてくれる人も出てきました。
そうやってトップセールスの仕事ぶりを見るうち、わかってきたことがありました。トップセールスたちに共通しているのが、新米時代の「勤務時間外の努力」だったんです。
売れている営業マンはみんな、まだ売れていなかったころ、休みの日を使って業界や競合他社の研究をしたり、お客様の前でプレゼンテーションをおこなう練習をしたり、オリジナルの販売促進ツールを作成したりしていました。つまり、勤務時間以外の自由時間を使って、仕事のための訓練をしていたんです。
「プロ営業マン、イコール天才ってわけじゃないんだな。やっぱりみんな最初のころは、陰でむちゃくちゃ努力してたんだ。売れるのは何も奇跡じゃないんだ……」
というわけで、私がトップセールスたちの真似をしたのは、まずこの「勤務時間外の努力」でした。そして、セールス用のツール。それから、お客様の事例。どういう人がどういう理由で買ってくださったのか、そういう事例の研究です。この3つを必死に真似しましたね。
具体的には、大きな鏡を買ってきてその前に立ち、お客様に対するプレゼンテーションをやってみました。つまり、自分に向かって売る訓練をするわけです。常に自分の目を見ながらやっていましたよ。違和感があっても、決して目をそらしちゃいけない。そのほかには、自分のセールストークをテープに録音して、客観的に聞く訓練です。どちらの訓練も、毎日やりました。
その結果、入社3カ月目にして初めて売れたんです。最初こそ上司に手伝ってもらいましたが、その後すぐに自分ひとりの力で契約を取ることができました。やっぱりどんなことでも、初めは上手な人の真似をするのが一番です。

投資は目標設定とペアで

時間と頭の投資は、目標設定とペアでおこなうべきでしょう。
私の場合、長期目標は「起業して経営者になる!」でしたが、短期目標は「とりあえず1本契約を取る」という身近なものでした。その短期目標を達成するために、遊びや休みを犠牲にして時間と頭を投資したわけです。
そして目標がひとつ達成されたら、次の目標は「今月中にもう1本契約を取る」に変化する。それが達成されたら、今度は「自分のお金で高級クラブへ行く」に変化する……という具合に、短期目標はそのときそのときの状況で、身近なものへと修正・再設定されていきました。
そんなあるとき、短期目標が「4畳半一間のアパートを出てマンションへ引っ越したい」に変化したんです。浪人時代と同じ狭い部屋に帰るのが、だんだんみじめに思えてきちゃってね。しかし、そのころ私の初任給が11万円——保険や税金を引かれた手取り額は8万円です。マンションの家賃はどう安く見積もっても7万円ですよ……払えるわけないじゃないですか。
けれども、ためらう私に上司がこう言ってくれたんです。
「コミッションで稼げば家賃が払えるじゃないか」
そうだった! 営業マンってのはふつう、売り上げを上げればコミッションという報奨金がもらえるんです。だから、コンスタントに売ることができる人なら、固定給にプラスした報酬が期待できるわけ。しかし、マンションに引っ越して、その後売り上げが落ちちゃったらいったいどうなるんだろう……と考えると、ちょっと二の足を踏んでしまいますよね。
私のそんな気持ちを見透かしたように、上司は言いました。
「引っ越したいなら引っ越したほうがいい。自分を追い込まなきゃダメだ。稼げなくなったらそのときは、また家賃の安いアパートを探せばいいんだよ。お前はまだ家族を養っているわけでもないんだから、いまのうちに自分に投資しておけ」
ああ、そうかと納得しましたね。これも自分への投資なんだと。いま抱えられるリスクはすべて抱え、自分を追い込んで力をつけようと決意しました。だめなら元に戻ればいいんだと。そこで、十月にはアパートから念願のマンションへ引っ越したんです。
そうなると今度は生活がかかってきますから、売れなくなるのが怖くてしょうがない。上司の言ったとおり、自分を追い込んで必死に仕事しましたね。短期目標を「トップセールスになる」に変化させたのもこのころです。そして、十一月にトップセールスを達成。その後も数年間ずっとトップの座を守り続けました。入社1年後はわずか21歳にして、20名の部下と3000万円の年収を手にしていたんです。
それもこれも、時間と頭を投資する時期を間違えなかったからだと、いまにしてつくづく思いますよ。目標を設定したら、それを達成するために、時間と頭を使うこと。特に若い時期にはこれが重要になってきます。

チャンスを逃がすな

時間と頭を使うにあたって、タイミングというのも大事な要素です。チャンスをもらえるのは若いうちだという話をしましたね。あなたが一生懸命努力していれば、どこかで必ずチャンスが巡ってきます。そのタイミングを逃がすことなく、的確にとらえ、そこで時間と頭を投資することが必要なんです。
私の場合、会社に入ってからまず、実際の営業時間を長くしました。そして、勤務時間外の時間は「仕事上手な人の真似をする」ことで訓練しました。ここで目いっぱい時間を投資したわけです。もちろん頭も使いました。その結果、プロの営業マンになれるチャンスが巡ってきた。そこで再び、自分の時間を投資して仕事にのめり込む。とにかく一人前になるまでは仕事漬けでいよう、と思っていましたね。
入社後しばらくして部下ができてからは、売ることに加えて人の管理や指導や育成というのが仕事になりました。これはいわゆるマネージメントですね。つまり、ここでリーダーになるための勉強をするチャンスが与えられたわけです。再び、時間も頭も、そして部下にごちそうすることで実際にお金も投資しました。
しかし余談ですが、ごちそうしたら部下のモチベーションが上がるだろうってのは、美しき幻想にすぎなかった。私にすれば、「そっか、メシ食わしたからってその分働くわけじゃないんだな」と知ったんで、これは自分自身への投資だったとも言える。ま、部下にとっては、ごちそうだけしてくれて口は出さない上司が最高だってことでしょう。
いずれにしても、このときマネージメント能力を身につけられたのが、のちの自分の経営者人生にとって、とても大きかったと思いますよ。
さらにそのころから、マーケティングがわかるようになっていきました。マーケティングというのは、何を誰にいくらで売るか、すべてコントロールすることです。したがって、商品開発、顧客ターゲット設定、経営管理といったもの全部に通じてなくちゃならない。このマーケティングが、会社の方向性を決定するんだと知りました。がぜん興味が湧きましたね。
私の長期目標は起業でしたから、マーケティングを勉強しておけば必ずのちのち役に立つ。それがわかっていたから、時間を惜しまず勉強しました。価格・販売方法・顧客分析……なぜレジャー会員権にはこの値段がついているのか、どういう売り方が考えられるのか、お客様のターゲットはどうなっているのか。“基本はお客様に喜んでいただくこと”というのはどんな商売にも共通しますが、価格や販売方法や顧客層はそれぞれ異なるし、価格が安けりゃ売れるってもんでもありません。
そして25歳のとき、会社が同業他社に吸収合併されたのをきっかけに、サラリーマンを辞めて独立する決意をしたんです。
吸収合併なんて聞くと、ふつうはピンチだと思いますよね。でも私の場合は、それまでに時間と頭をいっぱい投資してきたから、新しい会社からはいままで以上の期待をかけてもらえたし、全然ひるむことがなかった。で、この状況はむしろ、自分にとってはチャンスだと考えました。
そしていろいろな人に話を聞き、「10年後、20年後も存在し続ける仕事」「お客様がリピートオーダーしてくれる仕事」に的を絞って、何の事業をやっていくか決めることにしたんです。最終的には「汚れる商売はすたれない」という先輩の言葉にピントを得て、クリーンビジネスを思いつきました。最初に始めたのが、店舗に出向いてテントやカーペットや換気扇などを洗うという出張クリーニング業です。
この商売を思いついたとき、何が大変になってくるだろうと考えました。ある人が言うには、「洗うのは道具があれば簡単だが、注文を取るのが難しいだろうな」と。これを聞いて、しめた! と思いましたよ。注文を取ること、つまり営業ならお手のものですからね。
「これは、いけるかもしれないぞ……」
というわけで、経営者としての自分を試すチャンスがやってきたんです。こうして「山口商会」が誕生。最初に会社へ入ったとき以上にハードな日々が始まりました。
そのころの平均的な私の日常です。
朝は3時半に起きて支度し、4時半から現場でお客様の店のテントを洗う。その後「吉野家」で朝食をとり、いったん自宅へ戻ってシャワーを浴びてから、注文をいただくための外回り。私が営業に出ている間は、ふたりの学生アルバイトが現場を担当するので、その様子をときどき確認しながら、ひたすら夜まで商店街や飲食店エリアなどを歩き回ります。1日に何キロも歩くため、あっという間に靴底がすり減りました。独立後、最初の1年間で休んだのはたった1日でしたね。
確かに体はきつかったが、精神的な疲れはなかった。“やらされてる仕事”じゃなく自分で時間をコントロールしていたので、そんな毎日がまったく苦にならなかった。若かったせいもありますし、明確な目標を持っていたから、時間と頭を投資するのは当たり前だと思ってました。
その結果、マーケティングの面白さに目覚め、ますます仕事にのめり込みました。何せ、“店舗の大掃除代行”というのが完璧にオリジナルの商売だったんで、相場ってものがないんですよ。何もかも自分で決めなくちゃならない。例えば、「テント洗ってほしいんだけど、うちの店だといくら?」なんて聞かれても、始めのころは「えーと、いくらかなあ……」てなもんでしたよ。
そのうち、「小さいテントひとつ洗うのに1時間かかるから、まあ1万円かな。とすると、大きいテントだと2万円か……」なんて具合に決まったり、お客様が 「1万円ならやってもらってもいいよ」と言えば「そこを何とか1万2千円にしていただけませんか?」というふうに2割アップで交渉してみたり。利益を出すための値段決め、これが結構楽しかった。
がむしゃらに働いた甲斐あって、売り上げは順調に伸びていきました。クリーンビジネスってのは、リピートオーダーがいただけて手堅い商売ですからね。つまり私の読みは外れなかったわけです。やがてそうこうするうち、掃除道具や機材を仕入れていた会社の人から、こんな提案を受けました。
「山口くん、君には営業力がある。どうだろう、うちの機材を買って同じような出張クリーニングをやりたいという人間を探してきてくれないか? そうしてくれたら、マージンを払うよ」
私の大掃除ビジネスがうまくいってるのを見て、“この機材を使って商売すればこんなふうに成功します”というモデルとして「山口商会」を使おうと考えたんでしょう。この考えは、フランチャイズのやり方に近いものがあります。単に自分で商売をやるだけでなく、商売のノウハウそのものを売るという考えこれを知ったとき、新たな可能性が開けたように思いましたね。再び、チャンスの到来です。
というわけでこのころは、本業の出張クリーニングに加え、掃除の機材を売る手伝いも始めてマージンをもらっていました。ところが、思いもかけないトラブルが発生。何とその機材会社が、多角経営に失敗して倒産してしまったんです。
「ここが倒産しちゃったら、機材も材料も仕入れられない。困ったな………」
悩んだあげく、この会社に機材を卸していたおおもとの会社に直談判することにしました。そのときに言われたのが、
「わが社は、法人が相手でないと取り引きできないんです。お宅が株式会社であれば、問題ないんですが……」
これを聞いて、株式会社化を決断。こうして「山口商会」は創業2年目にして「株式会社 トータルサービス」へと発展を遂げたわけです。このときも私は仕入れ先の倒産というピンチを、むしろチャンスと受け止めました。機材確保の必要に迫られての決断でしたが、株式会社になれば信用の大きさも違ってくるし、自分の下で代理店を作ることもできる。フランチャイズの将来性に期待し始めていた私にとっては、まさに絶好のタイミングだったわけです。
チャンスというのは、それが見えない人には巡ってきません。というより、そういう人はもしチャンスがやってきたとしても、おそらくチャンスだと気づかないでしょう。どんなときでも前向きに努力し、マイナスをプラスに、ノーをイエスにすることができる——そんな人だけが、チャンスを生かしてステップアップしていけるんです。
あなたのもとへやってきたチャンスを、逃がさないでください。そのチャンスはもしかしたら、ピンチという衣をまとっているかもしれません。衣の下にチャンスが隠れていることに気づけるのは、自分の時間と頭を投資してきた人だけなんですよ。